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木版画・タブロー作家 若月 陽子 × ナチュラルアート

蝶や鳥、草花など、身近な自然をモチーフとした木版画やタブローと呼ばれる大型のキャンバス画制作で活躍される作家の若月陽子さんに、アートの世界に入ったきっかけや創作への想いなどを伺いました。

アートの世界に魅了された10代の頃

幼い頃から絵を描くことが好きでしたが、アートの世界に魅了されたのは中学時代でした。彫刻家の山本須美雄先生に出会い、初めて作家のアトリエを訪問した時にとても感激し、“アートをする”ということに強烈な憧れを抱いたんです。そして高校では現代美術の世界で活躍される近藤文雄先生に学び、大学で銅版画と出会いました。大学時代の恩師、野村博先生は図録ではなく本物の作品を手にとる機会をくださり、仕事とは何かを教えてくれました。また、オリジナリティーの重要性や版画という概念の奥深さ、さらには芸術という哲学を私に教えてくれました。

結婚、出産、そして子育ての20代

大学卒業後は作家としての活動を夢見ていたのですが、22歳で結婚、子宝にも恵まれたため作家としての活動を一旦休止し、子育てに奮闘しながら、細々と絵を描く日々。理想とのジレンマを感じた20代でした。しかし一方で、子育てのおかげで子供時代のピュアな目線を追体験することができました。また、20代の終わり頃に「Think globally, Act locally」という言葉に出会ったんです。当時は子供のアトピーに悩み、人間と自然の関係性に腹を立てていたのですが、そんなにトゲトゲ構えなくても足元を見るだけで大宇宙を見るような感覚になり、心がスッと軽くなったのを憶えています。

ふたたびアートに向き合った30代〜40代

30代に差しかかった頃、たまたま友人から作家グループへの誘いがありました。その団体展で発表する作品が必要になったため、タブローと呼ばれる大型のキャンバス画や子供をモチーフにした手描きの作品などを制作するようになりました。40代に入ると画材メーカーが主催するコンペで入選したり、東京での個展の声がかかるなど作家活動にエンジンがかかってきました。同居していた義父が活動を応援してくれたこともあって、ふたたびアートに向き合える環境になりました。地元のアート仲間と一緒に、木曽川の草花でリースを作るワークショップを開いたりもしたんです。

版画をもういちど学び、そして自由になった50代

40代の終わり頃に、名古屋造形大学から講師の打診が舞い込みました。そこで「銅版画」「木版画」「シルクスクリーン」「リトグラフ」の4版種を教えることになりました。私が学んでいた当時とは違うテクニックも生まれていたため、学生たちに教えながら、私自身も版画の技法にもういちど真摯に向き合いました。私が学んだ西洋の版画以外にも、浮世絵の技法なども吸収しました。

そして、8年ほど勤めた大学から離れて約3年。現在は木口木版を中心に、自由な創作活動を楽しんでいます。版画の世界には制約がとても多いのですが、その制約やセオリーからはずれた作品もどんどん生み出しています。今、感じているのは「歳を重ねるって、いいことかもしれないな」という感覚。「こうでなければならない!」という気持ちがなくなり、とても気楽になりました。朝見る草花の美しさにいちいち驚いて、自分のペースで版木に向き合い、刷り上がった紙をめくる瞬間に至福を感じる毎日。そんな日々を、これからも重ねていけたらいいですね。

[木口木版(こぐちもくはん)とは]

木を輪切りにした「木口板」を版木として使い、ビュランという鋭利な刃物で微細な線や点を彫りこんでゆく版画の技法です。緻密な表現効果は銅版画に近く、一般的な木版(板目木版)とは大きく異なります。平圧プレス機で活字と同時に印刷できるため、“本の挿絵”として発展しました。木口木版特有の硬質な線が描き出す緻密な世界は多くの版画家を魅了し続け、今もなお、この技法を活かした優れた作品が制作されています。

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Profile / 若月 陽子

1959年:愛知県生まれ
1981年:名古屋造形芸術短大 洋画専攻科 修了
2001年:リキテックス・ビエンナーレ入選
2006〜2008年:名古屋造形大学 版画工房 非常勤職員
2008〜2014年:名古屋造形大学 版画工房 非常勤講師
2011年:山本鼎トリエンナーレ 優秀賞
2015年:川上澄生木版画展 審査員特別賞
2016年:川上澄生木版画展 川上澄生賞

取材協力:旧田内織布ギャラリー
愛知県一宮市起西生出72

美濃路起宿と毛織物が隆盛を誇っていた時代が色濃く残るまち一宮市起(おこし)地区。その中でもひと際目を引く洋館や蔵などを構えた明治30年創業の「旧田内織布」。セカイ建築チームの「近代建築再生スクール」によってリノベーションされた「旧田内織布」では、ギャラリーやカフェなど様々なカタチで活用されながら、その当時の面影を感じる事ができます。入場無料。