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第101回日本陸上選手権男子100メートル決勝で、桐生祥秀、多田修平、サニブラウン・ハキームらと力走する高橋周治さん(右から2人目)

愛知医科大学 医学部医学科 高橋 周治

「東京五輪を9秒台で走る医師」、究極の文武両道を狙う!

「医師国家試験合格」と「東京五輪陸上男子100メートル出場」という究極の文武両道を目指しています。その実現に向けて、勉強と練習に全力を注いでいます。
昨年9月のCBTに向けた対策を始めたのは、半年前の3月からです。陸上短距離のシーズンは4月に始まり、大会があると勉強ができないので、早めにスタートしました。まず取り組んだのは、テキスト「クエスチョン・バンク」の過去問題。循環器、呼吸器と、科目別につぶしていきました。忘れたところは大学のプリントを見直したり、教科書「病気がみえる」を使って理解を深めたりしたので、1周するのに約2カ月かかりました。10月のOSCEの対策では、「メック」の講義動画をiPadで視聴しました。
勉強は家ではやらない主義で、もっぱら大学のセミナー室にこもりきりでした。CBT対策を始めた春休みは午前10時から午後6時まで、長いときは午前8時から大学が閉まる午後10時まで。帰宅したら早く寝て、翌朝また早く行くという日々でした。たくさんの科目があって覚えることが多いので、とにかく時間をかけて、しらみつぶしに繰り返しやることが大切です。1年生のときからある程度、コツコツやっていてよかったと思います。高学年になってからでは間に合いませんでした。
陸上部の練習は週に3回、月・水・金曜日の授業が終わった夕方以降です。学内のグラウンドで、他のメンバーと基本的に同じメニューをこなします。例えば、「30メートルを5本、50を5本、70を3本、100を1本」といった感じ。どんなメニューをやるかより、どうやってやるかが大事です。メニューをこなすために練習するのではなく、こなせなくてもいいから、そのときの最大限の力を出すことを考えています。質をを良くすれば、短時間でも効果を出せます。ガツガツ走り込むのはあまり意味がないし、故障リスクも高まります。
それより「試合を想定した強度の走り」を心掛けています。本番と同じように100メートルをいかにまとめて走るか。大会では予選、準決勝、決勝の3本しか走りませんが、足、腕、肩など身体へのダメージが大きく、翌日は動けなくなるほどです。練習でもそれに近い形を意識しています。翌日は休んでしっかり回復させ、また一気に追い込むということを繰り返しています。

メンタル面の調整も大事です。昨年は定期テスト、陸上の日本選手権、CBT、OSCEがあり、特に大変でした。愛知医大では学業の成績が良くないと競技を続けられないので、CBTも高得点を狙っていましたが、自分にプレッシャーをかけすぎてしまいました。陸上をやっていると周りが勉強をしているので置いていかれると心配になり、勉強をしていると有力選手がいい記録を出したという情報が耳に入り、「ヤバイ」と焦って悪循環に陥りました。コーチに「お前は楽しんで走ればいいんだ。予選落ちしたってかまわない。頑張っているのは分かっている」と言われ、開き直れました。
走る直前はいつも、緊張というより極限まで集中しています。リラックスしていると力は出せません。医学的には、交感神経を優位にして、なるべく闘争心をむき出しにするようにしています。ルーティンは決めていません。そればかり気になって強迫性障害のような気持ちになるので、自然体で臨んでいます。トップアスリートの中には、冬季はオーストラリアやグアムなど温暖な所で練習をしている選手もいます。うらやましいと思うこともありますが、ないものねだりしても仕方がありません。周りにもアルバイトで稼ぎなら勉強している学生はたくさんいます。僕の場合は親が学費を出してくれたので、勉強と練習に時間をかけることができます。今ある環境で勝ってやろうと思っています。よほど悪い環境でない限り、いくらでも方法はあります。自分なりの答えを見つけるつもりです。

陸上を始めたのは中学生のとき。自分の能力に気付いたのは高校2年生のころです。トップレベルとの差が縮まり、日本ユース選手権の決勝に出ました。あの桐生祥秀選手もいました。僕は中学時代からアキレス腱が他の人より長く、それが走るのに有利なのかなと思っていましたが、最近になって実際に長いことが分かりました。他には身体的な特徴として、筋繊維の構成で遅筋(赤筋)より速筋(白筋)の割合が人より多いようです。速筋は最大出力が大きいのですが、エネルギーがすぐになくなります。僕は人よりバテるのが早いんです。
陸上選手としてどこまで伸びるか分かりませんが、「まだ全然いける」という手応えがあります。目標は9秒台を出すこと。桐生選手が9秒台を出して、やる気に火がつきました。あんなすごい選手でも自己ベストを更新するのだから、僕なんかまだまだ伸びしろがあるなと思って。でも、いいタイムを記録するには、大会に出場しなければなりません。平日に予選があって実習と重なるので、出る大会を絞る必要があります。その絞った大会に体調をしっかり合わせていかないといけないですね。女子にも陸上の第一線で活躍する医学生がいます。秋田大学医学部4年生の広田有紀選手。昨年の日本選手権は800メートルで8位でした。同学年なので、いい刺激になります。

医師を目指したのは、自然な流れでした。僕がいた東海高校の選抜クラス(A群)は3分の2が医学部を志望していたのです。それに高校2年生のとき、歯科医だった父が重い病気になったことから、医師になろうと思いました。高3のときに父は亡くなり、受験勉強もあるし、陸上はいったんやめました。一浪したのでブランクは2年あります。でも、中途半端な時期にやめたので、本当はもっとできたという思いが強く、大学での再開に向けて気力はみなぎっていました。
浪人中は太らないように気を付けました。受験勉強で競技を中断し、悩んでいる高校生や浪人生は多いですね。今チューターを務める「メディカルラボ名古屋校」や大会の会場でも、「どうやってトップレベルまで戻したのか」とよく聞かれます。きちっと自己管理し、きちっと練習すれば、大丈夫です。


「極限の集中」からスタートを切る高橋さん(右から2人目)

学生生活の面では、一般学生の間で「自分は浮いてないか」と心配になることもあります。身体が大事なので、僕はお酒を飲んだことがありません。低学年のときは先輩に「飲め」と迫られて困りましたが、あえて車で行き、それを理由に断ったりしました。いつもお茶を飲んでいます。申し訳ないと思うけど、その分、結果を出します。
注意しなければいけないのは、ドーピングです。東洋医学の実習で漢方薬を煎じた際、興奮剤の麻黄(マオウ)という禁止物質が含まれているのに気付いたことがあります。葛根湯にも入っています。
将来、何科に進むか、まだ決めていません。外科が意外と面白いなと思ったし、スポーツ医学への興味も多少ありますが、全ての科を回って視野を広げいろいろなものを見てから決めようと考えています。遅い人では、研修医の最後に決める人もいます。

なぜ走るのか---。
やはり一番好きなことだし、自分を高めてくれるものだと思います。陸上をやっているから自己管理ができているし、勉強もしっかりやろうという気になります。両方があることが自分にとって大事なことです。今は勉強より陸上にかけるエネルギーの方が大きいかもしれませんが(笑)

高橋周治(たかはし・しゅうじ)さん

愛知医科大学医学部医学科4年

2020年東京五輪が近づき、「過去最高レベル」と注目が集まる陸上男子の短距離界で、とりわけ異色の存在だ。日本選手権男子100メートルのファイナリストにして、現役医学生。
昨年6月の同選手権決勝はサニブラウン、多田修平、ケンブリッジ飛鳥、桐生祥秀らそうそうたるメンバーに続く7位で2年連続入賞を果たした。自己ベストは10秒27。
医学生らしく専門知識に基づき自身のフィジカル、メンタル両面を分析、自然な形でトレーニングや本番に取り入れている。桐生選手が昨年、日本人で初めて10秒の壁を突破し、生来の負けん気がメラメラと燃え上がる。

高橋さんの2017年の主な流れ

3月CBT対策の勉強開始
4月陸上短距離シーズン入り
5月定期テスト
6月陸上日本選手権
7月定期テスト
9月CBT
10月OSCE