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医療法人錦秀会インフュージョンクリニック 院長 伊藤 裕章

難病「クローン病」の治療に挑む

小腸や大腸などに炎症が起こり、腹痛や下痢を繰り返す原因不明の難病「クローン病」。若い世代の発症が多く、普通の生活も困難になるほどの重い病気です。この難病の原因解明や最先端の治療に挑み、日本初となる専門クリニックを立ち上げた伊藤裕章先生に、医師になったきっかけやこれまでに挑んできたこと、医学を志す若者へのメッセージを伺いました。

消去法で決めた医学部への進学

医師の家庭に生まれたため、幼いころから医療が身近にありました。しかし、私自身は別の道に進みたい気持ちが強く、高校3年生になっても「どの学部を受験するか?」で心が揺れていました。ぎりぎりになって消去法の末に医学部が残ったのですが、準備不足で1年の浪人時代を過ごし、大阪大学に進みました。

大阪大学では内科に入局したのですが、救急も学ぶ必要があると感じ、救急の現場にも顔を出しました。救急の本を持って当直に行くのですが、はじめは心配で仮眠もとれない状況。多くの先生に指導を仰ぎながら、救急医療を学んでいきました。

その現場で特殊救急部の先生と出会い、救急部に移ることになりました。それが、第一線の病院で救急や外科の技術を学ぶきっかけとなりました。印象に残っているのは外科の手術。上手な先生の手術を見ると、混沌とした状態から物語がスッと収束していくのを見るようで、ある種の恍惚感を感じたものです。

私も外科の技術習得にのめり込みました。

そして平成4年。古巣の内科から声がかかり、大阪大学に戻ることになりました。大学では肝臓における「ゲルゾリン」という物質の働きについて研究を行いました。

消化器免疫学を深めるためスタンフォード大学へ

ゲルゾリンの研究で学位をとった頃、「インターロイキン-6」というサイトカインを発見した岸本忠三教授との運命的な出会いがありました。ちょうど研究が一区切りしたタイミングだったため、今後は消化器と免疫に関連する「炎症性腸疾患」の研究を行うことを決めました。

消化器に炎症を起こす炎症性腸疾患は、完治させる方法が確立されていません。当時は発症した多くの患者さまが『あたりまえの日常』を失っていました。欧米では主にステロイドで寛解(一時的に回復した状態)導入を行い免疫調整薬で維持する方法がとられ、日本では絶食が推奨されていました。しかし、多量のステロイド使用は副作用が強く、絶食治療では普段通りの生活を行うことが困難でした。

また、消化器免疫学というものがちょうど始まった時期だったため、学びを深められる施設が世界に3つほどしかない状態でした。その中からスタンフォード大学を選び、2年半の留学を経験しました。そこでクローン病に近い動物モデルを作る方法を考え、日本に持ち帰りました。

帰国後の研究では、岸本先生が開発した日本生まれの抗体製剤「アクテムラ」がクローン病にも効くことを突き止めました。さまざまな施設で臨床試験を行い、適用にむけてのアクションも起こしました。アメリカやヨーロッパに招かれて講演を行うなど世界から期待されていたのですが、諸事情によって開発が中止になりました。ちょうどその頃「レミケード」がデビューし、多くの患者さまに劇的な効果が出たんです。

日本初の「インフュージョンクリニック」

アクテムラをクローン病に適用する希望は達成できませんでしたが、クローン病治療を大きく変えた抗体製剤「レミケード」を使って患者さまの助けになろうと気持ちを切り替えました。そのタイミングで北野病院から声がかかり、消化器センターのセンター長に就任しました。当時、抗体製剤は消化器の医師からは「怖いもの」「受け入れがたいもの」と受け止められていたため、その認識を変えるべく全国で講演を行い、新しい治療の啓発を行いました。

一方で炎症性腸疾患の患者さまは年ごとに増えていき、治療を行うスペースの確保が難しくなってきました。そこで日本初となる専門クリニックを開院することになったんです。その頃アメリカでは、主治医の指導のもと、自宅近隣にある点滴専門の「インフュージョンクリニック」で治療を行うというスタイルが増えつつありました。しかし、私は主治医も自身で行いたいという思いから、自分で診て、その場で点滴をスムーズに行える日本版のインフュージョンクリニックとして出発しました。現在では約600名もの患者さまが定期的な抗体製剤による治療を受けています。

「普通に戻る」ことの大切さを実感

抗体製剤を正しく使うと、多くの患者さまの症状が劇的に改善します。引きこもり状態になっていた青年が元気を取り戻し、地元で子供のサッカーコーチを務めるようになったり、女性の患者さまがママになったりと、感動があまりにも多すぎてそれがあたりまえのように感じる毎日を送っています。

患者さまも最初は「すごく良くなりました!」と喜ぶのですが、時間が経つにつれて「普通です」と言うようになるんです。しかし考えてみると、それまで病気に苦しみ、ベッドから離れられずにいた人々が『普通の生活に戻る』というのはすごいパワーです。

クリニックの開院当初は患者さまに子供ができるたびに一緒に記念撮影をしていたのですが、その喜びの数が増えるにつれ、いつしか撮影もしなくなりました。しかし、それが「いい方向に向かっている」ということなのだと思います。

大切なのは、病気ではなく人を診ること

人が好きであれば、医師になる動機は不純であってもいい。私はそう感じています。人間が好きであれば、医学部の講義はどんどん面白くなっていきます。一生懸命勉強して、いい医師になろうという気持ちが湧いてきます。大切なのは、病気を診るのではなく人を診ること。目の前にいる人と対話をして、何とかしてあげようとする。それが楽しくてたまらなくなるのが医学なのだと思います。

また、医師は毎日成長していける職業です。ある事柄を覚え、それだけをやっていけばいいという仕事ではありません。医学も自分自身も「昨日よりも今日、今日よりも明日」と、何かが進歩していく面白さがあります。最先端の情報や技術を取り入れていくことで、自分にできること、患者さまにしてあげられることがどんどん増えていきます。それが、仕事のやりがいや生きる喜びにつながっていくのだと思います。

伊藤 裕章(いとうひろあき)氏 プロフィール

医療法人錦秀会 インフュージョンクリニック
[診療科目]
一般内科、炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎など)、リウマチ、皮膚科、美容皮膚科
[所在地]
大阪府大阪市北区大深町3-1
グランフロント大阪タワーB 9階
TEL:06-6359-2123

大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院第三内科および特殊救急部の研修医を経てさまざまな病院で外科と内科の医療を実践。大阪大学に戻った後にスタンフォード大学留学、北野病院消化器センター部長を経て2010年4月に日本初となるインフュージョンクリニックを開院。

「笑顔で人生を前向きに過ごせるようになってほしい」という信念のもと、進学・就職・結婚・出産など、患者の将来を見据えて治療にあたっている。

[資格・所属学会]
日本消化器病学会認定専門医、評議員、近畿支部評議員/日本消化器内視鏡学会指導医、近畿支部評議員/日本内科学会認定内科医、近畿支部評議員/日本消化管学会胃腸科認定医、評議員/厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班研究協力者/米国消化器病学会会員/米国免疫学会会員/雑誌「IBD Research」編集委員

[著書]


『やさしいクローン病の自己管理』
伊藤裕章編集
医薬ジャーナル社/2003年


『クローン病・潰瘍性大腸炎と診断されたらまっ先に読む本炎症性腸疾患の革命的治療』
伊藤裕章(著)
三雲社/2012年