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国際医療福祉大学名誉学長・副理事長 北島 政樹

医療の高度化・専門化が進むとともに、超高齢社会やネット社会の到来によって国民の求める医療ニーズは多様化し、医療への要求は年々高まりつつあります。こうした中で、次世代の医療の担い手となる医学生や若手医師は何をモチベーションに日々どのような研鑽を積んでいけばよいのでしょうか。消化器外科の第一人者として万国外科学会の会長を務め、2006年には世界のホームラン王・王貞治氏の胃がんの全摘術を腹腔鏡下で実施し、昨年まで国際医療福祉大学学長として医学教育に携わってこられた北島政樹氏に医学生や若手医師に向けたメッセージをいただきました。

自分の適性を知る

大学病院では高度化医療の研究を、また市中病院や診療所においては地域に密着した形で安心・安全な医療を提供するなどそれぞれの機能・役割を果たして、相互に連携しながら、国民の健康を守っています。医師の進路としては、病院勤務や診療所などで臨床医師として進む道のほか、研究者として医学を究めていく道、または医療行政へ進む道もあります。臨床医となっても大学病院で研究を続ける道など、そのキャリアパスはいろいろです。研修医時代にいろいろな科を回り自分の適性を考え、さらに先輩たちの話も参考にして進路を決めるとよいでしょう。どのような道を歩もうが、診療スキルアップのため日々努力するとともに人命を預かる重い責任の自覚と、患者の不安な気持ちを思いやる心を忘れないことが大切です。

コミュニケーションスキルは不可欠

特に、コミュニケーションスキルを高める努力は極めて重要と考えます。昨今、若者の間では、電子メールやSNS等がコミュニケーション・ツールとして多用され、face to faceの対話が少なくなっていると言われます。患者が前向きに治療に取り組むためには、患者と医師間の良好なコミュニケーションが不可欠であり、それが患者との信頼関係構築の前提となります。患者とのコミュニケーションを軽視する医師は医学的な専門性を高めても患者にとってはよい医師とはいえません。また、今日では、医師とメディカルスタッフが協力して患者を治療するチーム医療が主流となっています。その中軸を担うのは医師です。したがって、医師には患者や家族とだけでなく、医療チームの人たちとのコミュニケーションを良好に保つことが強く望まれています。

また、人格を磨いて患者の心を癒せる医師を目指してほしいと思います。わが国の心臓外科のパイオニアとして崇められた故・榊原仟先生は『小医』は病も心も癒せず、『中医』は病を治しても心を治せず、『大医』は病を癒して心を治すと諭しています。

領域を越えて学ぶ

医療の臓器別の細分化と専門分化が進んだ結果、 自分の専門分野の診断・治療はできても、 ごく一般的な病気を診ることができない医師が散見されるといわれます。医学の最先端を目指して勉強する一方で、本来医師として誰もが身に付けていなければならない基本的な診療技術の大切さを忘れてはならないでしょう。世界で初めて全身麻酔を用いた乳がん手術を成功させた江戸時代の華岡清州は、「内外合一」という言葉でそのことを表しています。すなわち、「外科だから外科しかやらない」ではなく、「患者にとってベストな治療法を外科、内科、東洋医学などの領域を越えて考え実践せよ」ということです。現代にも十分通ずる考え方です。

「生まれ変わっても外科医を選ぶ」

内科治療の進歩により、非侵襲的に治せる疾患が増えていますが、それでも救急や治療の根治性において外科治療の果たす役割は大きく、外科手術によってのみ救える命が数多く存在します。外科医の養成には臨床経験の積み重ねによる技術の習得が必要であり、若手の外科医志望者を安定的に確保していくことが不可欠です。それにもかかわらず、外科は3K(きつい、厳しい、汚い)の診療科と思われ,志望者が伸び悩んでいます。外科というのは「自分の手で患者を助けた」というやりがいや達成感を最も感じることのできる診療科です。先日、これまでに小腸や肝臓の移植を行った子供たち十数人が参加してスキー合宿を行いました。自分が手術した子供たちが元気に成長している姿を目の当たりにして感無量でした。このような感動を得られるのは、外科医ならではないでしょうか。私は、もう一度生まれ変わっても外科医を選びます。

海外に目を向ける

グローバル化が進む一方で日本人の海外留学希望者は減少しており、内向き志向が増えているとされます。しかし海外留学では、医療に必要なスキル以外に、人として外国人医師・研究者と接し飛躍的に成長できるチャンスを得られることが大きいと思います。私は、留学したハーバード大学・マサチューセッツ総合病院のバーク教授に「将来はAcademic Surgeonを目指しなさい」と言われ、その言葉がその後の私の外科医人生の大きな指針となりました。日本の若手医師にはぜひ海外に目を向けてほしいと思っています。

それとともに、若い人たちには、日本の医学・医療の将来を背負っていく熱い情熱を持ち続けてほしいと心から願っています。

北島 政樹 プロフィール
1941年 8月 2日 生

国際医療福祉大学名誉学長・副理事長。慶應義塾大学医学部卒(45回生)。外科学(一般・消化器外科)専攻、医学博士。慶應義塾大学名誉教授。

足利赤十字病院外科部長を経てHarvard Medical School, Massachusetts General HospitalにFellowとして2年間留学。帰国後は杏林大学第1外科講師、助教授、教授を経て慶應義塾大学医学部外科学教授に就任。副病院長、病院長、医学部長を歴任後、国際医療福祉大学副学長・三田病院病院長、同大学長を経て現在に至る。

英国王立外科学会・米国外科学会・イタリア外科学会・ドイツ外科学会・ハンガリー外科学会・ポーランド外科学会名誉会員。New England Journal of Medicine、World Journal of Surgery、Langenbeck's Archives of Surgeryなどの編集委員を務める。日本学術会議(19、20、21期)会員(第二部副部長)、ヨーロッパ科学アカデミー会員を歴任。万国外科学会、国際消化器外科学会、国際胃癌学会等の会長および日本癌治療学会、日本内視鏡学 会等の理事長を務める。

編集制作/Medical Tribune
MedicalTribune/1968年にわが国で唯一の週刊医学新聞として創刊されました。各種医学会取材による最新医学情報をはじめ、専門家へのインタビュー記事、解説記事など、研究や日常診療に役立つ情報を提供しているジャーナル。Web会員医師10万7千名。